甘木と桜井~地名比定
最終更新:2024/06/27
初出:2022/05/02
筑紫平野の朝倉市甘木地域と奈良盆地周辺の地名の間には対応関係が見られる。邪馬台国東遷説では、邪馬台国勢力が北九州から奈良盆地に東遷した証拠のひとつとして挙げられている。
確かに地名の対応関係が認められる。しかし、邪馬台国東遷説の旗手である安本美典氏が使用する地図(「邪馬台国の会」サイト掲載)に記載された地名の比定や位置については、いくつか納得がいかない点がある。また、簡略で平面的であることも私にとって不満である。
そこで最近いくつかのページで行ったように Google Maps Static API を使ってマーカー付の地形図を作成し、安本氏の地図と比較してみた。地名リスト右の方の数字は緯度と経度である。なお、山名については濃い灰色のマーカーを付けた。
- A:甘木(朝倉市甘木) 33.421081,130.656002
- B:朝倉(朝倉市宮野 日田往還鎌倉街道沿い) 33.387769,130.722419
- C:久留米(久留米市 西鉄久留米駅) 33.312211,130.521300
- D:三瀦(みづま)(久留米市三潴 三潴駅) 33.256762,130.469645
- E:香山(朝倉市杷木志波) 33.360058,130.782846
- F:鷹取山(八女市星野村 鷹取城) 33.302806,130.722718
- G:天ヶ瀬(日田市天瀬 天ヶ瀬駅) 33.254775,131.023856
- H:玖珠(玖珠町役場) 33.283106,131.151863
- I:鳥屋山(朝倉市佐田 鳥屋山) 33.435518,130.801608
- J:上山田(嘉麻市山田総合支所) 33.559187,130.764526
- K:田原(田川郡川崎町田原) 33.604006,130.814566
- L:笠置(かさぎ)山(飯塚市相田 笠置山) 33.686342,130.642131
- M:春日(春日市春日 春日神社) 33.521807,130.469360
- N:御笠山(=宝満山)(太宰府市北谷 宝満山山頂) 33.539907,130.569188
- O:住吉(すみえ)神社(福岡市博多区住吉) 33.585901,130.413721
- P:草香江(福岡市中央区草香江) 33.580232,130.374315
- Q:野方(福岡市西区野方 野方遺跡) 33.555274,130.305961
- R:平群郷(和名抄)(福岡市西区吉武 吉武高木遺跡) 33.537921,130.318581
- S:御井(久留米市御井町 祇園山古墳) 33.303247,130.554324
- T:小田(朝倉市小田 小田茶臼塚古墳) 33.388211,130.664843
- U:三輪(筑前町(旧三輪町)新町 筑前町役場総合支所) 33.433912,130.636546
- V:筑前高田(筑前町高田) 33.419139,130.632164
- W:長谷山(朝倉市長谷山) 33.464572,130.682902
- X:裂田の溝(うなで)(那珂川市 裂田神社) 33.491818,130.425641
比較するといくつも疑問点がある。
- 田原(K)が遠賀川流域では田川郡川崎町でしか見つからなかった。
- 笠置山(L)の位置が安本氏の地図では飯塚市の中心部になっている。
- 平群郷(R)の位置が安本氏の地図ではかなりずれているのではないだろうか? 私がネット検索したところ、平群郷は吉武高木遺跡の周辺とわかったので、吉武高木遺跡にプロットした。
- 私は春日(M)を春日市の春日神社あたりと思ったが、安本氏は粕屋郡粕屋町あたりに比定している。
- 安本氏は野方=額田(Q)としているが、私は確信できない。
- 安本氏は三井(S)を小郡市あたりに比定している。確かに小郡市は旧三井郡の一部であり、福岡県立三井高校が立地するが、旧御井町は筑後川の南側に存在し、現在は久留米市の一部になっている。
- 長谷山(W)という地名は朝倉市にあるが、Google Map では山名としては検索できない。北西の尾根伝いのどこかが本来の長谷山なのだろうか?
- 安本氏の地図では甘木の小石原川(夜須川)を挟んだ反対側に雲堤(X、うなで)が存在することになっているが、私は Google Map で見つけられなかった。代わりに那珂川市に「裂田の溝(うなで)」という場所を見つけた。
- 私は Google Map で旧夜須町(現筑前町の一部)に「池田」という地名を見つけられなかった。
- 安本氏の地図では長谷山の北東、秋月城のあたりに加美(上)という地名があることになっているが、私が Google Map で探しても見つけられなかった。
次は奈良盆地(特に桜井市)周辺である。
- A:上之庄(嘉美?)(桜井市上之庄) 34.520454,135.838577
- B:朝倉(桜井市朝倉台 6号公園) 34.516531,135.878216
- C:久米(橿原市久米町) 34.483359,135.791184
- D:水間(大阪府貝塚市水間) 34.400318,135.385191
- E:天香久山(橿原市南浦町) 34.495547,135.818479
- F:高取山(高市郡高取町高取) 34.429229,135.827843
- G:天ヶ瀬(奈良県上北山村 天ヶ瀬川) 34.200887,135.975821
- H:国栖(吉野郡吉野町国栖) 34.385456,135.936064
- I:鳥見山(宇陀市榛原萩原) 34.550152,135.940321
- J:山田(天理市山田町 春日神社) 34.629876,135.941202
- K:田原(奈良県磯城郡田原本町) 34.552769,135.792447
- L:笠置山(京都府笠置町笠置) 34.754850,135.942291
- M:春日(奈良市春日野町 春日大社) 34.681261,135.848343
- N:三笠山(=若草山)(奈良市雑司町 若草山) 34.690935,135.854263
- P:日下(東大阪市日下町 日下神社) 34.690809,135.654571
- Q:額田(東大阪市額田町) 34.677158,135.649725
- O:住吉大社(大阪市住吉区住吉) 34.612496,135.493062
- R:平群郷(和名抄)(奈良県生駒郡平群町 平群町役場) 34.629151,135.700296
- S:三井(奈良県生駒郡斑鳩町三井) 34.624180,135.735617
- T:織田(現桜井市芝付近)(織田村道路元標) 34.534987,135.841538
- U:三輪(桜井市三輪 大神神社) 34.528703,135.852761
- V:大和高田(大和高田市内本町) 34.514025,135.742001
- W:初瀬山(桜井市白河) 34.546680,135.894094
- X:雲梯(うなで)(橿原市雲梯町 河俣神社) 34.502095,135.774773
- Y:池田(奈良市池田町) 34.639195,135.819868
筑紫平野・甘木周辺よりも奈良盆地周辺の方が地名を探しやすかったが、それでも疑問点がいくつかあった。
- こちらでも「嘉美/加美」を見つけられなかったので、桜井市上之庄(かみのしょう)をプロットしたが、安本氏の地図とは位置が少しずれてしまった。
- 九州の「甘木」に相当する地名も見つけられなかったが、ひょっとすると「甘」→「甘味」→「かんみ」→「かみ」→「上」という変遷があったかも知れない。
- 「田原」が笠置山のすぐ南に見つからなかったので、磯城郡田原本町にプロットした。
緯度・経度で位置を示したので、今後は検証しやすくなるであろう。もし、私の比定が町名・大字の範囲以上に間違っている場合は、メールにてご連絡頂ければ幸いである。
なお、奈良県南西部から南西に流れる吉野川~紀ノ川沿いに和歌山県の伊都郡と那賀郡がある。魏志倭人伝が北九州にあったと伝える奴国(中国語上古音での「奴」の発音は「nag」)や伊都国を連想させる。記紀の神武東征記事には何も言及されていないが、その後の大和政権確立の過程で吉野川~紀ノ川が交通手段として活用されたのかも知れない。