仮説「ネコは祢子=守護霊」
加筆・修正:2024/02/25|作成:2020/11/08
ネコ(猫)はイヌ(犬)とともに人間にとって最も親しい動物である。ペットとして飼っている家庭も多い。
ウィキペディアのネコの項目によると、イエネコの祖先種は、ヨーロッパヤマネコの亜種であるリビアヤマネコである。ミトコンドリア DNA 分析の結果、最終氷期であるヴュルム氷期(ウィスコンシン氷期)末の約 13,000 年前(専門的には「アレレード期」と呼ばれる一時的な温暖期)に遡ると判明している。
最古の飼育例としては、キプロス島の約 9,500 年前の遺跡で、人骨と一緒に埋葬されているのが発見されている。また、紀元前約 3,000 年の古代エジプト遺跡では壁画に描かれている。
日本史の中では、ネズミの害から仏典を守るために平安時代にネコが飼われたことが記録されているが、弥生文化と共にネコが日本列島にやって来た可能性があるらしい。
さて、問題は日本語の「ネコ」の語源である。「ネコ」と「語源」でネット検索すると、
- 「ネコマ」の下略という説
- 夜行性で昼間よく寝ることから「寝子」に「獣」の意味の「マ」が付いたとする説
- 「ネ(寝)」に、「クマ(熊)」が転じた「コマ」が付いたとする説。
- 「ネ」が「鼠」、「コマ」が「神」もしくは「クマ(熊)」とする説
- 鳴き声が由来という説
が紹介されているが、定説があるわけではない。しかも、どうも納得がいかない。
そこで、私なりの仮説を提唱したい。すなわち、
「ネコ」の語源は「祢子=守護霊」である。
もちろん、中国語の辞典に「祢子」という単語が載っているわけではないし、現代中国語の標準語(普通話)では、ネコは「猫 Māo」である。ネコが中国原産でない以上、「Māo」自体も借用語であるか、流行語であった可能性がある。黄河文明を築いた中国人の祖先がネコに馴染んでいれば、ネズミが干支に採用されたのにネコが採用されないなんてことは起きなかったであろう。広まった経路は、草原の道やシルクロードではなく、東南アジア経由の海路に違いない。
ネコにはネズミを捕食するする本能がある。ネズミは折角人間が貯蔵した倉庫の食料を食べたり、木材を囓ったりする害獣である。流行病の媒介もする。現代の先進国では、ネコはすっかり愛玩動物と化してしまったが、日本でもほんの数十年前までネコはネズミ除けの益獣として飼われていた(私が子どもの頃はそうだった!)。昔の船乗りは、ネズミが食料を食い荒らしたり船底に穴を空けて船を沈没させたりするのを防ぐために、ネコを飼っていた。
したがって、弥生時代以前の中国江南地方(現在の上海周辺)の誰かがネコをふざけて「祖先霊=守り神」という意味で「祢子(neko)」と呼んだに違いない。それがあまりにぴったりだったので、勢い余って弥生時代の日本列島にも広まった、というのが私の考えるシナリオである。
問題は「祢子」に「祖先霊=守護霊」という意味があるかどうかである。
手持ちの電子辞書カシオ「EX-word XD-K7300」(2016年春購入)に収録された小学館「中日辞典 第2版」の「祢/禰(nĭ)」の項目を見ると、
- (古)死後、位牌に祭ってからの父に対する称
が載っている。
更に学研の「新漢和大字典 普及版」(藤堂明保・加納喜光編)で「祢/禰」を引いてみると、発音として、
- 呉音「ネ、ナイ」
- 漢音「デイ」
- 慣用音「ネイ」
- 上古音 ner
- 中古音 nei(ndei)
- 中世音 niǝi
- 現代音 ni(拼音 nĭ)
が載っている。
意味は、
- 《名》父の廟(ビョウ)のこと▽自分に身近な父のみたまやの意。
同意語=呢 - 《名》姓の一つ。この場合 mí と読む。
である。
熟語としては、
- 禰祖
- 父と祖先とのみたまや。
- 禰宜
- 神職の一つ。宮司または神職に次ぐ。また、ひろく神職のこと。
が載っている。「みたまや」とは「御霊屋」であり、デジタル大辞泉によると
貴人の霊を祭ってある所。霊廟。おたまや
という意味である。
他の熟語例としては「祖禰(そでい)」がある。倭の五王の一人武が487年に中国南朝の宋に送った上表書に見られる。
昔より祖禰は、躬(み)に甲冑を貫(まとい)て、山川を跋渉し、寧(やすらか)に處(お)るに遑(いとま)あらず。....
ここでは「祖禰」は「(亡き)父祖」という意味で使われているようである。
以上のことから、「祢子」の「祢」は「祖先霊」という意味合いを持ちそうである。「子」は「児/兒」であり、中国語普通話の「儿(er)」であって、小さいものへの愛着を示す接尾辞である。
したがって、「祢子」全体で「祖先霊ちゃん」という意味になる。また、祖先霊は守護霊として子孫を守ることが期待されている。まさに、
ネコは倉庫や船をネズミから守ることを期待されている!
昔よくネコに付けられた名前の「たま」も漢字では「霊」なのかも知れない。
なお、「祢子」には真面目な使用例もあるのではないかと思われる(「子」には男性の尊称という使い方もある)。天皇の和風諡号にある「ヤマトネコ=日本根子・倭根子」の「ネコ=根子」である。「ヤマトネコ」で「日本の守護者」という意味になりそうである。
うむ、だいぶ話が大きくなった......(爆)