ツル(鶴)の語源とトキ(朱鷺)
更新・修正:2024/02/25|作成:2012/04/04
「ツル(鶴)」と「トキ(朱鷺、鴇)」は、ともに日本を代表する鳥です。「ツル」は日本航空のシンボルマークになっていますし、「トキ」は学名が「Nipponia nippon」であるなど、日本とは切っても切れない縁があります。
残念なことに「トキ」は、かつて日本・沿海州・朝鮮半島・中国に普通に見られたのに、乱獲と生息地の開発がたたって日本産は絶滅してしまいました。今は中国陜西(シエンシー)省産のトキが新潟県で人工繁殖されています。もっとも日本産、中国産と言っても、遺伝的な距離は個体差の範囲しかありません。最終氷期最盛期(21,000~15,000年前)には黄河の河口が韓国の済州島のそばにあり、遺伝子の交流に制約がなかったわけですからそれも当然でしょう。
さて、「トキ」を広辞苑(第5版)で引くと、
コウノトリ目トキ科の鳥。東アジア特産。全長約75センチメートル、嘴は長大で下方に曲がる。全体白色であるが、羽毛、殊に風切羽と尾羽の基部は淡紅色(とき色)。後頭に冠毛があり、顔は裸で赤色。脚も赤い。(以下略)
と記述しています。
一方「ツル」については、
ツル目ツル科の鳥の総称。古来長寿の動物として尊ばれた。沼地・平原などに群棲し、地上に営巣・産卵。日本ではタンチョウ・マナヅル・ナベヅルなどを産するが現在ではいずれも稀。タンチョウを単にツルともいう。古名、たず。(以下略)
と記述しています。
写真で見ればツルとトキの違いは一目瞭然ですし、鳥類学者は生態の違いをも明らかにしてくれています。しかし、
- 大型の水鳥である。
- 羽は全体的に白っぽい。
- 雑食性で、田んぼにいるドジョウやカエルも食べる。
という共通点もあり、写真どころか文字も普及していなかった時代には混同が起きても無理はありません。実際水墨画では、松の木にとまったツルという、ツルの習性に反した構図で描かれているものもあるそうです。或いは、「トキ」を意味する中国語の単語に「红鹤 hong2he4」ということばがあるように、中国ではトキはツルの一種と考えられているのかもしれません。
そう考えていくと、ツルと朱鷺の中国語ピンイン「zhu1lu4」が非常に似ていることが偶然の一致とは思えなくなります。ツルはローマ字で「tsuru」と書くから「zhulu」とは母音しか共通点がない、と主張する人がいるかも知れませんが、そういう人は、
- 中国語の「zhu」は、口を突き出しながら「ヅー」と発音したときの音と思えばよい。
- 日本語の「r」音は、本当は「r」よりも「l」の方に近い。
という事実を見落としています。
ということで、私は、中国でトキを「zhulu」(またはその祖型)と呼ぶことを知っている人が、誤解して鶴を「ヅールー」と呼んだのが「鶴」を「ツル」と呼ぶ始まりだと思います。
もっとも、広辞苑(第5版)では、「ツル」の語源について
- 朝鮮語 turumi と同源
- 鳴き声を写した
という2つの説を紹介しています。
また、Yahoo!知恵袋では、
- 多くが連なって飛ぶから=つるんで飛ぶ。=つる。
- 大きな鳥なので「すぐれている」=「すぐる」=すぐる=すぐる=つる。
という説が紹介されています。
最後に、関連した知識をいくつか挙げておきます。
- 「鶴」は音読みで「カク」であるが、現代中国語では「he4」と発音する。
- トキのもうひとつの日本語漢字表記である「鴇」は、現代中国語では「bao3」と発音し、「ノガン」という意味である。
- 現代中国語には、「トキ」を意味する単語として「朱鹭」と「红鹤 hong2he4」以外に「朱鹮 zhu1huan2」がある。