有朋自遠方来~
最終更新:2024/02/25|作成:2017/01/20
有朋自遠方来不亦楽乎
これは『論語』の「学而篇」冒頭にあるあまりに有名な一節である。高校の漢文の教科書にも載っているかも知れない。しかし、解釈は2つ、或いは3つあって、決着が付いていない。
- 朋有り、遠方より来たる、また楽しからずや
- 朋遠方より来たる有り、また楽しからずや
上記2つは定番の解釈であるが、ネット検索したところ、その他に[貝塚茂樹訳(中公文庫)など]では、
- 友朋(ゆうほう)遠方より来たる
という解釈も行われているらしい。中国語で友人のことを「朋友(péngyou)」というが、順番を逆にしても同じ意味ということなのだろう。
それはさておき、a と b の解釈では「有」は動詞として扱われている。しかし、本当に動詞なのだろうか?
私が昨年(2016年)春に買ったカシオの電子辞書「EX-word XD-K7300」に収録された小学館「中日辞典 第2版」の「有(yǒu)」の項目を見ると、
- (人を主語として)持つ。持っている。
- (文頭に時間・場所を表す語句を置き)ある。いる。
- ”有”+形容詞、”有”+数量の形で、程度や数量に達する。
- 発生する。生じる。
- 《“有人”“有一天”などの形で》ある・・・。
となっている。2番目の意味が該当するとしているわけである。
しかし、私はこの一節を「ある友人が遠くから来る、楽しみではないか?」と解釈したい。つまり、ここでの「有」は、5番目の、「ある人」、「ある日」という時の「ある」という意味、漢字で書けば「或」だと思うのである。「有的」としても意味は同じ。そういえば、中国人である家内は、日本語で「ある友達」と言うべきところ、母国語である中国語に引かれてか、「あるの友達」と言ってしまう。
小学館「中日辞典 第2版」には、「或」という意味での「有」に関して、次のような用例が載っている。(面倒なので「们」以外は簡体字に変換せず。)
- ~的地方雨大、~的地方雨小
あるところは大雨が降ったが、あるところでは少ししか降らなかった。 - 他们~(的)時候上午開会、~(的)時候下午開会
彼らは午前に会議を開くこともあれば、午後に開くこともある。
(直訳すると、「彼らはあるときは午前に会議を開き、あるときは午後に開く」。)
なお、参考ながら「或」という漢字の読み方は、訓読みの「ある」しか学校では習わなかったが、学研の「新漢和大字典 普及版」(藤堂明保・加納喜光編)を引いてみると、
- 呉音は「ワク」
- 漢音は「コク」
- 上古音 ɦuǝk
- 中古音 ɦuǝk
- 中世音 huo
- 現代音 huǝ(拼音 huò)
となっていて、「有(拼音 yǒu)」とは開きがある。下に「心」を付けた「惑」(「惑星」の「惑」)と同じ音である。