風仙洞

中国語の否定語「群」

更新:2024/02/26|作成:2015/10/15

漢字(中国語)にはいくつも否定語が存在するが、私の頭に浮かんだものは次の11個。

不 否 非 没 無 勿 毋 莫 漠 黙 亡

詳しい方ならもっと思い浮かぶだろう。それぞれについて、呉音、漢音、慣用読み(一部)、中国語普通話(pinyin)、音価の歴史的変化(上古→中古→中世→現代)を辞書で調べてみた。使った辞書はいつものように、

  1. 岩波「広辞苑(第5版)」(最新版は第6版)
  2. 小学館「日中辞典(第2版)」
  3. 学研「新漢和大字典(普及版)」
岩波「広辞苑 第5版」 小学館「中日辞典 第2版」 学研「新漢和大字典(普及版)」

の3点。1.と 2.は、今となっては化石とも言える電子辞書カシオ WD-LP7300 に収録されているものである。

こうしてみると、次のようなことが見て取れる。

  1. これら否定語の上古音(周代~漢代の中国語発音)は、/m/ 或いは /p/ で始まり、語尾の多様性は少ない。
  2. 上古音では存在していた語尾の子音を中世に失い、母音、或いは /ŋ/ で終わるようになった。
  3. 現代音での子音は、/m//u(wu,w)/ が多いが、/f/ /p/ /b/ のこともある。唇歯音/f/の発生は新しく、無声両唇摩擦音/ɸ/が変化したと言われる。/u(wu,w)//m//b//p//ɸ//f/という順に並べ替えれば、両唇音を中心に分布することがわかる。
  4. 「中国語の3大センター」のページの最後のあたりで、漢字の類型としてMBW型という概念を提唱したが、否定語の場合は単独の漢字ではなく、語群としてMBW型を構成しているようである。3.で述べたように、/p//f/は、/b/が2次的に変化したものである。

以上、「否定語」という語群が成立することを説明したが、こういった「類似語群」は「否定語」だけではない。

......などでも成立するのではないだろうか? 漢字の起源を研究するとき、部首や旁だけでなく、字形は似ていなくても発音が類似している、或いは歴史的に似ていたケースをも考慮する必要があるだろう。