作成:2022/10/05

作成:2022/10/05

風仙洞

中国の聖山と地下資源

ウィキペディアの「五岳」の項目では、次のように説明されている。

中国の道教の聖地である5つの山の総称。五名山とも呼ばれる。陰陽五行説に基づき、木行=東、火行=南、土行=中、金行=西、水行=北 の各方位に位置する、5つの山が聖山とされる。
  • 東岳泰山(山東省泰安市泰山区)(世界遺産)
  • 南岳衡山(湖南省衡陽市南嶽区)
  • 中岳嵩山(河南省鄭州市登封市)(世界遺産)
  • 西岳華山(陝西省渭南市華陰市)
  • 北岳恒山(山西省大同市渾源県)
神話によると、万物の元となった盤古という神が死んだとき、その五体が五岳になったと言われている。

少しそれぞれの山について紹介すると、次のようになる。情報源はウィキペディアと百度百科(中国語)。

泰山(Tàishān)
古くは[岱 dài 宗][岱山]といった。皇帝が封禅を行うことでも知られ、最高峰はの玉皇頂(1,545m)と呼ばれる。泰山の神(東岳大帝や泰山府君等と呼ばれる)は冥界の最高神であり、人間の寿命や在世での地位を司ると考えられた。
衡山こうざん(Héngshān)
主峰は祝融峰(1290m)。ふもとに南岳大廟がある。神農氏がここで薬となる植物を採ったとの伝説がある。仏教や民間信仰の聖地でもあり、山の神と火の神を兼ねた祝融が民間信仰として祀られている。
嵩山すうざん(Sōngshān)
ふもとには少林寺・中岳廟・嵩陽書院などがある。高峰は三つあり、東を太室山(1440m)、中央を峻極山、西を少室山(1405m)と呼ぶ。唐代の副都落陽に近いため、嵩山を本拠とする道士、僧侶らは皇帝の崇敬を受け、道教、禅宗はそれぞれ自派を拡大した。
華山(Huáshān)
東西南北と中の5つの峰から成り、最高峰の南峰は海抜2154m。花崗岩が露出した険しい山肌が続く景勝地として知られ、険しい断崖絶壁で有名。道教の修行地であり、山上や麓には道観も多く、現在でも多くの道士が住んでいる。
恒山(Héngshān)
主峰は玄武峰(2017m)。八仙のひとり張果老が住まうとされていて、五岳の他の山々と同じく周時代から道教の聖地とされていたことが記録に残るが、他の四山ほど重要視されていなかった。その代わり仏教の名刹懸空寺で有名。

五岳に次ぐ格式の山として五大鎮山(五鎮)がある。情報源は上と同じ。

沂山ぎさん(Yíshān)
沂蒙山主脈のひとつ、旧名を「東泰山」と言い、「東小泰山」とも称する。山東省灘坊市臨朐県と臨沂市沂水県の境界にある。「泰山が五岳の中で貴いとすれば、沂山は五鎮の首座だ」説まである。
呉山(Wúshān)
又の名を「呉岳」と言う。陝西省宝鶏市と隴県の境界にある。17峰ある中で鎮西峰、会仙峰等が最も有名。また、真人洞、餐霞洞、神雷洞、鳳凰石、元鶴巣等の名勝もある。
霍山かくざん(Huòshān)
又の名を「霍太山、太岳山」と言う。《禹貢》注によると、最も早く古代中国冀州の鎮山となった。百度百科によると、堯帝の頃は五鎮名山の筆頭だったとのこと。
会稽山かいけいさん(Huìjīshān)
又の名を苗山、茅山と言う。浙江省紹興城外にある。松や竹の緑が冴え、花が錦のように咲き乱れる。禹王がここに葬られ、廟が石碑と共に建立された。山麓には河姆渡遺跡が存在する。
医巫閭山いふりょざん(Yīwūlǘ)
略称閭山。遼寧省錦州市北鎮市内にあり、周囲約120km。主峰は望海山の海抜866.6m。観音閣一帯の仏閣が有名で、青々とした常緑樹と様々な花が美しい。満州語で「緑あふれる山」という意味。

これらに加えて仏教伝来前から聖地となっていた山として五台山、峨眉山、黄山、岐山がある。

五台山ごだいさん(Wǔtáishān)
文殊菩薩の霊場(世界遺産)となっていて、中国四大仏教名山のひとつ。山名の由来は、五つの主要な峰によって構成されていることによる。最高峰は海抜3058m。
峨眉山がびざん(Éméishān)
普賢菩薩の霊場とされて中国四大仏教名山のひとつとなっているだけでなく、道教の聖山でもあり、中国三大霊山のひとつでもある。世界遺産。最高峰は万仏頂(3098m)で、頂まで32の名刹が続く。後漢時代から仏教施設の建設が始まった。
黄山(Huángshān)
70 を超える険しい峰が連なる景勝地。黄山の名は黄帝がこの山で不老不死の霊薬を飲み、仙人になったという伝説に基づく。秦代には黟山いざんと称されていたが、唐代に現在の黄山に改名。
岐山きざん(Qíshān)
県内の東北部にある「箭括嶺」という山には、峰が二つあって向かい合っており、山頂が二つに分岐していることから「岐山」の名がついた。伝説上は炎帝が本拠とした場所とされる。周王朝の発祥の地でもある。

Google Map Static API 上にプロットすると次のようになる。ついでなので、夏王朝成立前に炎帝神農氏、軒轅けんえん(後の黄帝)、蚩尤しゆうが争った「涿鹿たくろくの戦い」、「阪泉ばんせんの戦い」もプロットした。涿鹿鎮は河北省張家口市涿鹿県、阪泉は北京市延慶区にある。

Google Maps Static API による中国の五岳と仏教以前からの聖山
西遼河  
地域
黄河上流域
黄河中流域(関中・中原)
中間混合地帯
黄河下流域
長江上流域
東:巴
西:蜀
長江中流域
西:両湖平原
東:鄱陽湖平原
長江下流域
  • E:泰山(Tàishān)
    36.254610,117.105881
  • S:衡山こうざん(Héngshān)
    27.296737,112.694007
  • C:嵩山すうざん(Sōngshān)
    34.519449,113.004052
  • W:華山(Huáshān)
    34.477805,110.084769
  • N:恒山(Héngshān)
    39.672657,113.732555
  • G:沂山ぎさん(Yíshān)
    36.209772,118.618220
  • U:呉山(Wúshān)
    34.663922,106.909902
  • K:霍山かくざん(Huòshān)
    36.479368,111.878107
  • H:会稽山かいけいさん(Huìjīshān)
    29.946854,120.608800
  • I:医巫閭山いふりょざん(Yīwūlǘshān)
    41.603640,121.720881
  • F:五台山ごだいさん(Wǔtáishān)
    38.968469,113.590618
  • O:峨眉山がびざん(Éméishān)
    29.515577,103.336057
  • Y:黄山(Huángshān) 30.131218,118.168497
  • Q:岐山きざん(Qíshān)
    34.565675,107.687815
  • T:涿鹿たくろく(Zhuōlù) 40.365310,115.212403
  • B:阪泉ばんせん(Bǎnquán) 40.496452,115.893200

※括弧内は現代中国語での拼音(Pinyin=中国式ローマ字発音記号)

※山名の下の数字は北緯と東経。

五岳と峨眉山は金庸の武侠小説で武術流派の本拠地になっているが、小説を読んでいて衡山がこんなに南だとは思わなかった。河南省の南部か湖北省の北部だとばかり......。なお、恒山と衡山は発音が「Héngshān」と同じである。会話の中でどう区別するのであろう?

それはさておき、五台山と峨眉山は中国四大仏教名山であるが、元々霊山として信仰されていたとのこと。ちなみに、他の2つは安徽省池州市の九華山(地蔵菩薩の霊場)と浙江省舟山市の普陀山(観音菩薩の霊場)である。普陀山は現代では島であるが、12000年以上前の最終氷期には海水面が 120~130m 低下していたので、実際に小高い山だったのだろう。

なお、地域名は日本の縄文時代に当たる新石器時代の地域区分に大部分従ったが、中流域は中原+関中盆地と北京周辺の間には空白地域があり、「中国網」の、

五千年前、中華民族の三大文化の始祖である黄帝、炎帝そして蚩尤は涿鹿という古い文化的な土地で暮らし、そこに中華民族歴史上初の町――黄帝城が建設された。初めて中華民族の融合と統一が実現し、中華文化五千年の文明歴史が始まったのである。

という情報を考えると、現在の河北省・北京周辺は中間混合地帯として独立させた方が良いのではないかと思われる。内モンゴル自治区の主要部と渤海湾の間の東西ルートと中原・黄河下流域と遼河流域の間の南北ルートの交点であるだけでなく、鉄や石炭といった地下資源にも恵まれている。

しかし、この中間混合地帯にとっての銅の産地がどこかという疑問が残る。長江流域は遠いので、洛陽の北西約80kmにある中条山(Zhōngtiáoshān)だろうか? それとも甘粛省蘭州市や金昌市近くの鉱山だろうか? 西安の北約100kmにある銅川市や寧夏回族自治区にある青銅峡も地名が気になる。

ただし残念なことに、青銅を作るためのもうひとつの金属である錫の産地がわからない。広西壮族自治区北部の福建省、湖南省、貴州省との境界近くにはいくつか産地があるが、遠い。いっそ遠洋船で行くことにしてマレー半島か?

それにしても、炎帝神農氏などが山を闊歩した理由は伊達や酔狂ではなかったとわかった。山に行けば有用な資源が見つかるという現実的な理由もあったのである。

▼黄河上流域の地下資源(石炭・鉄・銅・鉛)分布
Google Maps Static API による甘粛省~陝西省の地下資源
凡例
  • 白=石炭
  • 緑=鉄
  • 赤=銅
  • 黄=金
  • 茶=鉛・亜鉛
  • 紫=錫
  • 橙=水銀

※帝国書院刊「新詳高等地図」の地図を見ながらおおよその見当で位置を求めた。続く図も同じ。

地名
  1. 山西省運城市芮城県中条山 35.247422,111.983227
  2. 甘粛省蘭州市 36.194631,103.895474
  3. 甘粛省金昌市晋川区 38.797311,101.961727
  4. 寧夏回族自治区青銅峡市 38.018572,106.077610
  5. 陝西省銅山市 34.980299,108.953378
▼河北省~吉林省の地下資源(石炭・鉄・銅)分布
Google Maps Static API による河北省~吉林省の地下資源
▼黄河中流域(中原・関中)の地下資源(石炭・鉄・銅)分布
Google Maps Static API による黄河中流域の地下資源
▼長江中・下流域の地下資源(石炭・鉄・銅・錫)分布
Google Maps Static API による長江中・下流域の地下資源
▼長江上流域の地下資源(石炭・鉄・銅・錫)分布
Google Maps Static API による長江上流域の地下資源
▼中国東部の地下資源(石炭・鉄・銅・錫)分布
Google Maps Static API による中国東部の地下資源分布
西遼河  
地域
黄河上流域
黄河中流域(関中・中原)
中間混合地帯
黄河下流域
長江上流域
東:巴
西:蜀
長江中流域
西:両湖平原
東:鄱陽湖平原
長江下流域
凡例
  • 白=石炭
  • 緑=鉄
  • 赤=銅
  • 黄=金
  • 茶=鉛・亜鉛
  • 紫=錫
  • 橙=水銀

※帝国書院刊「新詳高等地図」の地図を見ながらおおよその見当で位置を求めた。